Top Article on East-West Journal in May 2004 PDF Print E-mail
専門家が音楽療法・音楽教育の必要性を緊急提案
 音楽療法という言葉をご存知だろうか。「何となくイメージはできるけれど、実際のどんなことをするのかわからない」と思っている方が大半だろう。
アメリカ本土や日本では、その有効性が広く知れ渡り、障害を持った子供達やアルツハイマーを患っているお年寄り達を始め、幅広い分野で音楽療法が使われている。しかしアメリカ全体では、五千人もの音楽療法士が活躍しているが、ハワイには認定された人は三人しかいない。勿論ハワイにも療法を必要としている人は沢山いるのだが、ケアが受けられないのが現状だ。
 今回音楽療法及び音楽教育の必要性を、専門家が提案した。
音楽療法とは
ハワイにある唯一の音楽療法慈善団体[サウンディング・ジョイ・ミュージックセラピー]の創設者で、自らも音楽療法士の認定を受けている梶原恵子さんは、音楽療法という言葉の難しさを強調する。
音楽療法とは音楽を通して、潜在的にもっていた可能性を引き出すことです。隠れていた機能を引き出すともいえます。
よく皆さんに誤解されるのは、音楽療法と音楽教育を同じように思われている点です。音楽療法では音楽性を高めるのではなく、生活を向上させるのが目的です。楽器が弾けるようになるというのでもありません。
目に見えて音楽の結果がわかるわけではありませんし、何も起こっていないように見える場合もあります。時間も何年という長さが必要です。こうした点が、音楽療法というものをわかりづらくしているのでしょう。でも実際には効果がありますし、時には誰もが感動するような場面に出会うこともあります。
実際には依頼を受けるとまず音楽療法を必要とする方の家や学校に行って、アセスメントをします。その人が何に興味を持つか、音楽に対してどんな反応をするかを見ながら、最低むこう半年の予定を立てます。平均週一回一時間療法を試みます。最近は自閉症のお子さんが増えたという話をよく聞きますが、自閉症の子供は早めにケアすればするほど、効果があります」
他にはどの様な人たちに役立っているのだろうか。
「自閉症だけではなく、LD(学習障害)・ADHD(注意欠陥多動性障害)といった発達障害を持ったお子さんの中には、極度に緊張したり周囲の変化を怖がったりするお子さんがいます。そうしたお子さんと歌を歌ったり楽器を鳴らしたりすることで、緊張をほぐすことができます。以前は何でも受身だった子が自分から未知の物に飛びつき[自分でやってみる]と言えるようになったケースもあります。本を読んでも全く言葉を覚えられなかった子が、長い歌をすらすら歌えるようになったこともありました。
もっと重症な方なら、名前を呼んでも全く反応しなかった子が振り向くようになったこともありました。人によってその現れ方が違いますから、数字に表す事は難しいですが、有効なことは学問的にも証明されています」
また音楽療法の老人に対する有効性は高い。物忘れが激しくなったお年寄りでも、若い頃に覚えた歌はいくらでも歌えるといったことは、よく聞く話だ。周囲のことに興味を持たなくなったお年寄りが、若い頃好きだった曲を聞くことによって、再び周りに関心を持つようになった例もある。
若い人と違って、お年寄りの回復に関しては周囲の期待が薄い。寝たきりの老人には、[何をやっても無理だろう]と思いがちだ。
「でも身体が動かせなくなったり、無理なことが多くなった人は目に見えた動きができなくても、心の深いところに到達する力を音楽は持っているのです」と、梶原さんは言う。
実際の療法
実際にはどの様なアプローチが行われているのか。今日初めて療法を試みるという家庭を訪ねた。軽度の発達障害がある八歳の女の子がいるという。梶原さんは、電子ピアノやタンバリン・シェーカーなど重さ十キロもある荷物を、手馴れた作業で家の中へ運び入れた。
女の子はとても引っ込み思案で、最初は梶原さんの呼びかけにも、下を向いてもじもじしているだけ。梶原さんがピアノの鍵盤を触ってごらんといっても、椅子の後ろに隠れている。
梶原さんはその少女に声をかけながら、[トゥインクル・トゥインクル]を歌いだした。少女は恥ずかしがりながらも、ピアノに興味を持って見つめている。でも「一緒に歌おう」と誘っても、まだ首を振っている。
次に小さな太鼓を叩きながら、[オールド・マクドナルド]を歌う。早く歌ったり、ゆっくりなテンポになったり。その内に女の子も一緒に太鼓を叩くようになり、[もっと早く!!]と要求も出てきた。一度興味を持ち出すと、女の子もその雰囲気に馴染んできたのだろう、二人で大きな音を立てたり、小さなリズムにしたり。梶原さんは、楽しんでいる子供に、できるだけリードをとらせるようにしている。
梶原さんが歌いながら、右手を上げたり両手で大きな円を描いたり、それを女の子が真似をして同じ動作をする。他には、音楽にあわせてタンバリンを叩く。右手・左手・次は右足で叩いたり、左足で叩いたり、ジャンプをしながら叩いたり。子供は次に何をするのか楽しくて、目を輝かせながらついていく。さっきまで、恥ずかしがっていたのが嘘のようだ。
次はピアノと太鼓のセッション。梶原さんがピアノを弾くリズムに合わせて、子供もリズムをとっていく。楽しいメロディー・悲しいメロディー。
梶原さんが「アー・ユー・ハッピー?」「ノー」と答える子供。
「アー・ユー・サド?」「ノー」
「アー・ユー・ハッピー・ナウ?」「イエス!!」今度は、大声で答えた。
 最後は二人の楽しいセッションで終わった。一時間前、不安げな顔をしていた女の子からは想像もできないほど、晴れ晴れとした笑顔が残った。
音楽を通して見えるもの
もし音楽療法に全く興味を持たない人がこの風景を見ていたら、きっと「ただごちゃごちゃと音を立てて遊んでいただけ」と思うかもしれない。しかし梶原さんは、この短い間で子供を観察し、彼女に何ができるかをしっかり見据えていた。
「彼女はとってもシャイなお子さんですね。でも音楽が大好きです。とても興味を持ってくれました。彼女は音の大きさ・リズム・メロディーなどにすばやく反応しますから、物事に関する認知力はとてもあると思います。でも物事を構築だてて話をするのは、苦手だと思います。[自分でやってごらん]と言った時、どのように自分で進めていいのかが、わからないようでした。
運動面に関しては、問題ないと思います。中には目標物を上手く触れない子がいますが、彼女の場合は手や足を上手に使っていました。
もう一つ、この子の問題は、エンディングができないことです。自分で自分の意思をコントロールして、自分で[終わるぞー]ということが、できづらいです。
そうしたことを判断して、彼女の音楽療法の目標を立てるなら
・自分はできるという意識を強める(セルフ・エスティームを高める)
・曲には始まりがあり、終わりがあるということを、身体で覚えさせながら、物事や話の構築力をやしなう
・自分で自分の意思をコントロールできるようにする
ということだと思います」という。
たった短い間で、プロの療法士としてこのような視点で観察していたのである。
その様子を見ていたお母さんも、「本当にそのとおりです。娘は、本当は皆と交わりたいのに、恥ずかしがって上手く話せないときがたくさんあります。それに筋立てて話をすることが苦手です。
でも梶原さんの話で一番驚いたのは、[エンディングができない]ということです。確かにその通りで、自分が楽しく遊んでいたりすると、どうしても終わることができません。結局それで怒られてしまいます。勿論子供は誰でもそういう要素は持っているのでしょうが、娘の場合は自分の感情をコントロールできないのだと思います。もしそれが音楽で改善できるなら、是非音楽療法を続けたいです」と、驚きを隠せない。
しかし本当に、そのようなことが可能なのだろうか。
「勿論長い時間がかかりますし、目に見えた変化は判りづらいかもしれません。でも効果はあります。
子供の中には、この女の子のように、感情のコントロールが苦手な子は結構います。他のお子さんで、やはり[終わることができない]という子がいました。でも彼には二年音楽療法をして、随分変化が現れました。
例えば音楽を聴いていて、ミレドで終わる曲がミレで急に切れてしまったら、気持ちが悪いですよね。子供はそうしたことには、すばやく反応します。[ミレではなくミレドとすれば、気持ちがいいんだよ。物事にはこうした終わりというものがあるんだよ]ということを、身体で体験させるのです。[終わり]のできない子は、身体の中に[終わり]という体験が少ないのです。こうしたことを積み重ねていけば、身体が覚えていきます。
でもこれは決して躾ではありません。楽しくやりながらできるようになるのです。
また自閉症の子で、パニックを起こす子供がいます。そうしたお子さんは、今の自分の感情がよくわからない場合が多いのです。[今自分は、悲しいのか、怒っているのか、怒っているなら何に怒っているのか]。パニックの子がいたらその横で歌ったりピアノを弾いたりして、悲しいメロディーなのか激しい音なのか、今の自分はどの音楽を聞いたら気持ちが少し楽になるのかを探します。そうしたことで自分の感情を知るようになるのです」
音楽療法士は、楽器が上手く演奏できる事よりも、心理学・子供の発達成長・運動機能・アルツハイマーなど病気や障害についての知識と臨床経験を多く持つことが大切だという。
梶原さんはニューヨークで働いていた時代、感動的な場面に遭遇している。
「八十代の黒人のおばあさんの療法を行っていました。昔はオペラ歌手だったとナースから聞きましたが、本当のことは誰もわかりません。そのおばあさんは自ら、周りとの関わりを拒否しているようでした。私は一年間の約束で音楽療法を試みました。いつも横に座り、歌を歌ったり、彼女が知っているであろう音楽を演奏したりしていました。でも彼女は一度も私を見ることもなく、まるで私という存在がわからないかのように、無視していました。勿論私からは話しかけましたが、一度も返事を貰ったこともありません。
私も[このままでいいのだろうか、音楽療法の効果は出ているのだろうか]と悩み、途中で中断したほうがいいのではないかとも思いました。でも最初の約束は一年間でしたから、そこまでは頑張ってみることにしました。
最後の日、実は私も[これでおばあさんとの重苦しい時間を過ごさなくてすむ]と喜んでいました。そして[今日が最後です。さようなら]といって部屋を出ようとしたとき、今まで一度も振り向いてもくれなかったおばあさんが、振り向いて[ありがとう。私はあなたの声をずーっと聞いていました]と言ってくれたのです。予想もしていない言葉でした。
後になってホームの方から聞いたのですが、そのおばあさんには訪ねてきてくれる家族もいなかったようです。彼女は一年間私を見ることはなかったけれど、本当は私の声を聞いていてくれて、私を待っていたのです。
病院のスタッフも、今まで誰にも反応を見せなかったおばあさんが、感情を持って話をしだしたので驚いていました」
音楽の機能とは
 音楽とはどのような効果があるのだろうか。歌を歌ってリラックスしたり、自分の好きな曲を聞くと気分がやわらぐといった経験は誰にでもあるはず。
同じくサウンディング・ジョイの設立者の一人で、ハワイ大学の音楽教育コーディネーターであるアーサー・ハービー氏は、音楽を理論として説明する。
「人間の脳は、よく知られているように右脳と左脳に分かれています。また専門的には、細かい名称があり[話をするときは、この部分][運動をするときは、この部分]と、人が何をするかによって、活発に活動する部分が少しずつ違っています。ところが、音楽は耳から入り脳全体に同時に作用するという特性があります。だからこそ、脳の中で潜在的に眠っていた機能を呼び起こすのに効果的なのです。
 一言で音楽といっても、音楽には様々な要素があります。曲の調子(長調・短調など)、音の高低、トーン、リズム等。音楽療法士として、音楽と脳の関係を知る人は、その様々な音楽の要素を使い分け、今患者がどの様な音楽に接すれば、脳により多くの刺激を与えられるかを知っています。
 実際には、
・運動機能を高める。(パーキンソン病・レッド症候群など)
・感情をコントロールする
・集中力を高める
・言語機能を高める
・行動 社会性情緒
・認識 学習力を高める
 こうした力があります。
例を挙げると、音楽にはバランスを取る力がありますから、ハイパーの子は落ち着くようになりますし、欝の子はやる気が出てきます」
一般の人にも効果的
勿論音楽は、一般の人たちにも心と身体を癒す効果がある。
音楽を聴いてリラックスした場合、心が落ち着いたときに出るアルファ派が増え、心拍はゆっくりとなり、皮膚温が上がる。こういった変化は身体を休ませる副交感神経の働きが強まるために起こる。
この副交感神経の働きにより、免疫力も高まるという。免疫力の目安となるナチュラルキラー(NK)細胞というリンパ球の活性は、ストレスがあると落ちる。逆に音楽を聴いてリラックスすると、リンパ球が活性化するという。
また寝る前に音楽を聴くと、熟睡感が高まるという検査結果もある。日本でも、様々なヒーリングミュージックCDが発売されているが、自分の好きな曲でリラックスできる。
その他音楽は聴く人の心を躍動させたり鎮静させたりする作用がある。その鎮静効果を利用して、病院の待合室・分娩室・歯科治療室などで音楽を流すことが行われている。私達の生活の中で、気に留めることなく流れている音楽が、こうした目的を持っている。
「音楽には本当に素晴らしい力があります。でも皆さんそれを意識せずに音楽と接しています。例えばお母さんと小さな子が、一緒に歌を歌っているとき、子供もお母さんもとても幸せな気分になっています。誰も怒りながら歌は歌わないはずです。そうした幸せな気分が、身体にいいことは勿論、親子の絆という意味でも、大切です」と、梶原さんは言う。
音楽療法の必要性    
 そもそも音楽が人の心に及ぼす影響については、古くから知られており、旧約聖書サムエル記にも記述が載っている。ミュージック・セラピーという語は、ギリシャ時代からある。
 近代では、ヨーロッパ・アメリカが中心となってきた。特にアメリカでは第一次、第二次世界大戦を契機に、退役軍人のトラウマ(精神的ショック症状)の治療に音楽療法を用いたことに始まり、今に続いている。
しかし音楽はあまりにも身近なものだからこそ、有効性を理論的に知っている人は少ない。梶原さんが音楽療法の慈善団体を二年前に設立したのも、ハワイの音楽療法についての理解不足に危機感を持ったからだ。
「米本土に五千人いるセラピストが、これだけ人口の多いハワイにたった三人しかいないことは大問題です。本土でなら多くの子供達や老人が療法を受けることが当たり前になっているのに、私達がみているのはたったの九人です。またセラピストを養成する大学は七十校以上ありますが、ハワイの大学には一つもありません。これでは療法士は増えませんし、必要性が理解されない限り、仕事もありません。セラピーの要請を受けている人だけでも実際は五十人以上いるのに、実際には費用がなくて待っている状態です。
先日取材を受けてくれた家庭でも、お母さんは是非やらせたいけれど、経済的に難しいといっています。
普通私達のような非営利団体を設立すると、資金面での援助が様々なところからありますが、ハワイでは今のところありません。もともとハワイアン・ミュージックなど音楽はハワイの中に浸透しているのですから、どうして音楽が心身にいいのかという理論を知ってもらえたら、今療法を必要としている人たちを助けることができます。
実は日本でも最近は、音楽療法士は各方面で活躍しています。学校も沢山あります。そうした意味でも、ハワイだけが立ち遅れていることが心配です」
 
日米の音楽教育についての差
もう一つ、日本で教育を受けた梶原さんにとっては、ハワイの公立の音楽教育についても、深い懸念を持っている。学校によって音楽の授業がある所とない所があるからだ。
「日本の音楽教育では、ある程度譜面が読めるようになったり、リコーダーが弾けるようになります。小さな時に音楽に触れていることは、情緒的にいっても大切です。日本では幼児教育に、音楽は大きな役割を占めています。
やはりハワイでも音楽教育は必修にしたほうがいいのではないでしょうか」
その意見に同意する日本人は少なくない。ハワイでアメリカ人と結婚し、こちらで3人の子供を育てたお母さんは、「主人はアメリカ人で小学校時代音楽の授業はなかったそうです。でも日本の学校は必ず音楽教室があり、ベートーベンやバッハという音楽家を習ったり、有名な曲を聞きました。大人に成ったとき、ベートーベンを知らなくてもその人の価値は変わりありませんが、知っていることで人生の深みが違うと思うのです。
子供達が中学生になったとき、私は音楽教室のある私立に通わせました」
その点についてハワイ州教育局の先生方に話を聞いた。スクール・リニューアル・スペシャリストのラニ・カポロルさんは「ハワイでも国語・算数・社会・音楽・美術・体操などは、必修になっています。でも日本の様に、授業内容がきっちりと決まっているのではなく、もう少しフレシキブルで各学校・先生に独立性を持たせていますから、日本とは随分違って感じるかも知れません。
例えばある一年生の先生が、クラスの年間テーマを[中国]にすれば、授業の中で中国の民話や音楽を学んだり、体操の時間に太極拳を取り入れたりすることがあります。そうした総合的な流れの中に、音楽も入っている場合があります。
またハワイではハワイアンの授業も必修です。キンダーからハワイの挨拶を学び、フラなどで音楽に親しみ、もう少し学年が上がってくると言葉や土地の名前を勉強します。中学になればハワイの歴史を学びます。音楽もハワイアンの中で、捉えられているかもしれません。
ただ学校が[うちの学校ではもっと算数や国語の時間に力を入れる必要がある]と判断すれば、どうしてもそちらの時間が増えて、他の時間が削られてしまうことがあります。
もし親御さんが音楽の授業の必要性を感じたら、是非その事を学校に伝えてください。親の希望が多ければ、学校はそれを無視することはできません」
日本では親が学校に授業内容を注文するということは、重大な出来事のように感じるが、アメリカでは[子供達にとってよりよく学校で学べる為の努力は、どんどんしていこう]という考え方なので、とても積極的に受け入れられるという。
ESLL(イングリッシュ・セカンド・ランゲージ・ラーナー)部門のリソース・ティーチャーであるメイ・キリミツさんも、「授業についての要望だけでなく、どんな小さな事でも、先生に伝えてください。宿題の内容がわからなかったら、聞いてください。それが日本人の親御さんに、お願いしたいことです。
外国から来た方は、国によって学校のシステムが違いますし、戸惑うことも多いと思います。だからこそ、お互いのコミュニケーションが大切です。特に高学年になれば、日本に帰国するのか違う道を進むのかなど、将来のことも話し合っていれば、お子さんへの負担も少なくなります」という。
いままで何度か当新聞でも教育について取材してきたが、アメリカの教育は日本に比べ、より流動的であり、自由がきく。必修という考え方も、日本ならば、必ず週に一時間と決められているが、アメリカの場合は、授業の方法も時間も、もう少し自由な捉え方なのだろう。アメリカの方が、実際に[良い物に関して、取り組みが早い]という利点もある。
現実には、必ずしも毎週音楽の授業はないという学校もある。ならば音楽教育の必要性を親達が認識することが、第一段階になるのではないだろうか。
 
今後ハワイで必要なもの
梶原さんが慈善団体を設立して、二年がたった。しかし財政難という問題は、今でも大きく立ちはだかっている。音楽療法が知られていないという中で、随分悔しい思いもしてきた。
「ダウンタウンにある病院に行ったときのことです。入院している精神病棟の患者さん達に、セラピーを行いました。こうした場合は、私が楽器を弾いて歌を歌うということが多いです。患者さん達の反応は、あまり目に見えるものではありませんでした。それを見て、病院スタッフからは、[ちっとも効果はないじゃないか]と思われました。でもセラピーを終えた後、今まで反応のなかった方達が[今度はいつ来るのか?]と、聞いてきたのです。特に一人のおばあさんは[絶対来てくれ]と、私の手を握っていました。
見た目には変化はなくても、患者さん達の心には、しっかりと届いていたのです。その後病院からは、声はかかりません。もう一度、あの方達とぜひ音楽をしたいと思います。」
団体では、まずは啓蒙が必要と考え、病院やケアホーム、学校などへも出向き、無料で音楽療法の必要性を説明している。
「月に一回から二回、セミナーのような形で話をしています。ハワイではほとんど音楽療法は知られていないので、まずは政府関係や教育・ヘルスケア関係者の方々の集まりに出かけ、話をする機会が多いです。皆さん、セミナーが終わると音楽療法の大切さを理解してくれるのですが、今はできるだけ多くの方に音楽療法の存在を知ってもらう段階です。
教会などでも話をすることがあります。言葉で言っても判りづらいので、ビデオを見せたりしながら説明していきます。どうして脳にいいのか、お話しするだけでも皆さん感動してくれます。また去年はチャリティーコンサートも開きました。
興味がありましたら、是非連絡ください。伺います」という。
そうまでして、何故この仕事に打ち込めるのか。梶原さんは言う。
「毎回、毎回の進歩は微々たる物です。ハワイではまだまだ理解されていないので、悔しい思いをすることもたくさんあります。それでも続けてこられたのは、本当に時々ですが、[奇跡]としか思えない、鳥肌が立つような場面に遭遇することがあるのです。そうした中で、少しでも人々の役にたっていると思うと、明日も頑張ろうという気になります」
ハワイにも音楽療法を必要としている人たちは、数多くいる。今まであまりにも身近にありすぎて、必要性や理論を考えられなかった音楽。一人でも多くの人が「音楽はなぜ人を癒すのか」を理解することが、大切である。音楽は誰にとっても、必要なのだから。(イースト‐ウエスト ジャーナル:塩沢 じゅんこ)
 
連絡先
サウンディング・ジョイ・ミュージックセラピー[501(c)3 慈善団体 梶原恵子、アーサー・ハービー、ミホ・ミキ・メイ] 電話・FAX 945-7878
ウェブサイト www.soundingjoymt.org